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メディア懇談会(詳報)

メディア懇談会「新しいメディアづくりを考える」の主なやり取りは以下の通り。

P1030210  【問題提起1】 中村氏「デジタル化で生活者に変化」

メディア環境研究所はネット社会の変化に伴うメディア環境の変化に関する考え方を発信している。メディアが提供する情報の形はどうなるのか、メディアはどんな新しい使い方が可能かを提案したい。活動コンセプトは「メディアおこし」、「コンテンツおこし」だ。広告メディアとして認知されていないものでも、企業と生活者のコミュニケーションの場をメディアととらえるとき、どんな使い方があるのかを考える。広告は企業にとってマーケティング活動の一要素であり、生活者とのコミュニケーション手段だ。企業が自らの戦略に基づいてコントロールできることが重要で、予算を管理できることは大きな要素だ。生活者にとって広告は生活情報であり、企業の商品やサービスを知る重要な手段だ。マスメディアに接することで自然に情報を入手できる。これがマスメディアと広告と生活者のビジネスモデルだが、この先どこまでやっていけるのかを考えたい。

日本の家庭を中心にデジタル化の進展を予測する年表を作ると、2008年か09年にはデジタル機器が半分の世帯に普及するようだ。北京五輪の時期にメディアのデジタル環境は一般化する。来年のサッカーワールドカップでデジタル機器の普及に弾みがつき、08年か09年にはデジタル化が一気に進む。これに伴い生活者の情報接触や購買行動は大きく変化するだろう。

すでにその兆しがあり、デジタルビデオレコーダーが登場してテレビの視聴スタイルが変化した。いわゆるタイムシフト視聴、CMスキップだ。野村総合研究所が「CMスキップによる広告費の損失は540億円」というセンセーショナルな発表した。540億円というのは乱暴な計算だが、CMスキップという視聴行動は間違いなく進む。メディア環境研究所が調査してみると、デジタルビデオレコーダーの購入者は半年で非常に上手くCMをスキップするようになる。「この番組はこれだけCMが入る機会があるから3回(スキップ機能の)ボタン押せばいい」と心得ており、それは見事なものだ。

購買行動の変化で顕著なのは、マス広告に刺激されて商品に関心を抱き、店頭でその商品について調べた後、ネットで買うという行動だ。ネットでの商品購入は当初、書籍や旅行、株などが主だったが、最近は家電やゴルフクラブなどにも広がっている。また、携帯電話は情報伝達だけでなく、決済や販売促進のツールとしても使われている。携帯電話にクーポン券を送付すれば、携帯電話はプロモーションのための「メディア」になる。購買の直近に情報を送ることもできるので、携帯電話にクーポン券を送るプロモーションはかなり一般化するだろう。マスメディアと携帯電話を連動させる新たなキャンペーン手法も生まれる。情報提供と購買が連動するメディアである携帯電話をどう使うかが非常に重要だ。

広告メディアの将来を考えたとき、企業と生活者を結ぶコミュニケーションは決してなくなることはなく、広告のビジネスモデルも不変だろう。ただ、生活者の情報収集行動と商品の購買行動は劇的な変化を遂げる。ネットによる検索型の情報収集はもっと一般化する。現在も広告主サイト、価格サイト、商品情報サイトなどが登場しており、こうしたサイトからの情報収集が購買行動に影響を与える。

マーケティングコミュニケーションの環境は一方通行から双方向型を含めた形になる。生活者の情報接触行動の基本は受け身だろうが、個人の情報発信量は飛躍的に増加する。企業にとって都合の良い情報提供型のコミュニケーションだけでは生活者との真のコミュニケーションはできなくなる。ネットによって生活者が情報発信手段を持つ。これは重要なテーマだ。企業にとってのマイナス情報もあっという間に流布してしまう。そういう中で企業はどういう情報戦略をとればいいのか。これも広告会社の大きな仕事になる。

企業と広告会社は広報と宣伝広告の一体化がマーケティングコミュニケーションの基本になるということを考える必要がある。広告主の多くは、広報と宣伝・プロモーションの部門が別組織になっており、我々の観察によると両者は余り仲が良くない。これからはネットでどんな情報が流れるかわからないので、広報と宣伝・プロモーションを一体化して進める体制が重要になる。

従来型のキャンペーン告知などの分野はなくならないだろうが、ネットへの誘引が必須になる。そしてあらゆる局面で携帯電話をどう使うかがカギを握る。どのようにプロモーション活動に携帯電話を活用するかだ。今、ネットは広告メディアの一部だが、やがてネットが企業から発信される情報のすべての起点になる。ネットで情報収集しながら、全てのコントロールタワーをネット側においておかないと、どこからマイナス情報が拡大するかわからない。マスメディアのビジネスはそう簡単には崩れないが、ネットを起点にモノを考えて、広報、商品情報、プロモーション情報など企業の情報戦略の根っこにネットを置くことが重要だ。

【問題提起2】 金沢氏「ブログで〝コトおこし〟」

mr 三越は超オールドエコノミーの呉服屋出身。前身の越後屋は江戸で延宝元年(1673年)に商売を始めた。百年ほど前に経営危機に陥り、創業家から切り離されることになった。三井越後屋から三越になり、1904年に三越は呉服商の将来像として「デパートメントストア宣言」をした。百年前の宣言と21世紀に向けたデパートメントを考えたとき、ブログに着手しようと考えた。呉服屋にデパートメントの概念を導入した時代は洋服部や靴部などをつくり、モノのカテゴリーでデパートを拡大してきた。昨年、百周年を記念した日本橋の新館を開業するときにも、三越だけの限定品を集めようという議論があったが、もはやモノで競争する限界を感じていた。切り口をモノからコトに変える必要があると考えた。

コトで顧客を束ねていくのがこれからの百貨店。ブログで形成するコミュニティーを成長戦略の中核に位置づけている。例えば、米国では消防士の協会が年1回、ブラックタイ着用のダンスパーティーを開く。「今年はどんなタキシードを着ていこうかな」と楽しみにしながら、毎年、消防士が夫婦で服を新調する。日本で、ただフォーマル衣料を売り込んでも、顧客は着ていく場がないという。あくまでモノは道具に過ぎず、生活を豊かにするコトを作らなければモノは売れない。だからパーティーが好きな人、アウトドアを好む人というようにライフスタイルごとに人を束ねていく必要がある。百年前は不可能だったが、今はIT(情報技術)を活用すれば可能だ。ITを使い顧客を生活スタイルごとに束ねていくのが21世紀の百貨店だとの仮説を立てた。

まず、日本橋三越の新館に人が集まれるサロンを作った。ネットではブログによる情報発信をして、バーチャルでも同じライフスタイルの人が情報を共有できる場を作ろうと計画した。昨年10月からリアルのサロンで料理教室や情報交換できるパーティーを開き、その様子をブログで伝えて、参加を呼びかけている。集まった人はその情報をリアルとバーチャルの両方で共有できる。中村所長は「メディアおこし」について話したが、我々は「コトおこし」をしようとしている。顧客に感動してもらい、結果としてモノが売れるようにしたい。

コミュニティーサロンで展開するブログは大きく分けて「感動百貨店日記」、顧客同士の情報発信ができる「倶楽部日記」、それぞれの個人ページの3つがある。会員は480人。まず参加者は自分のページで情報発信をしてもらう。ショップのページでは(三越側の)25人がブログ書いている。本店の売り場でのモノの動きなどを書いて情報を出している。顧客と交流できるように、ショップのブログ担当者に対しては2カ月に1回は講習をして「コミュニティーおこし」の仕掛けをしている。

ブログを展開しながらわかったことは、店舗は「メディア」として価値があるということだ。サイトから店舗に来て、そしてまたサイトに戻るサイクルがある。例えば食のページには菜食主義の料理の先生がいる。三越で料理教室を開き、その先生を囲んでツアーやパーティーも考えている。写真家の先生を中心にした「写真倶楽部」でもブログを通じた交流がある。ブログには写真を貼ることが可能なので、写真を展示してもらっている。リアルではパーティーや写真の即売会を開き、写真によるコミュニティーをつくろうとしている。こうした「コトおこし」を中心に百貨店の再成長を仕掛けたい。

さらに一例を挙げれば、シニアの富裕層は百貨店にとって重要な顧客だ。最近、この顧客層によるフラダンスの発表会を三越で開いてもらった。こちらは実費でワインなどの接待をして、ムームーを着た60代の主婦層がフラダンスを楽しんだ。その中には影響力がある人がいて、いろいろな経営者の奥さんを知っている人がいる。こういう人が起点になって「お茶会を三越でやりましょう」と連鎖的に人がつながっていく。広告業界でいうインフルエンサーに「口コミ」によるバイラルマーケティングの手法で人を紹介してもらいながら三越のファンを作る仕掛けをしている。

ブログで若い人を中心にコミュニティーを作る一方、リアルのサロンでは富裕層のコミュニティーもつかみたい。同窓会などのコミュニティー運営を支援し、自己実現を支援して場の提供もする。「アソシエイト」と呼ばれる影響力のある人にキーパーソンになってもらい、周りの人をどんどん呼んできてもらう。この手法はマスマーケティングではない。富裕層には「これはいいですよ」と売り込んでも、なかなか商品を買ってもらえない。しかし、友人の口から「三越で扱っているあの商品はいいみたいよ」と言ってもらうと買ってもらえるようになる。

こうしたことはリアルを補完する形でブログでも可能だろう。ブログは導入から1年足らずで、効果については何ともいえない段階だ。あくまでリアルが中心で、それを補完する情報交流の場としてブログを使っている。三越は売り上げが8年連続で減少しているが、次の成長を実現するためのトライアルをしているところだ。

【討論】

参加者(金融情報会社) 今後、リタイアが本格化する「団塊の世代」へのアプローチを考えるとき、携帯電話やネット、ブログといったIT活用が本当に有効なのか。

中村氏 私は「団塊の世代」だが、高校の同級生との連絡はほとんど電子メールだ。10年後には高齢者はかなりネットが使えるという層になるだろう。両親が孫の顔をなかなか見ることができないというので、ブログを立ち上げて子供の写真を掲載している人もいる。両親は孫の写真を見るためにパソコンを覚えたそうだ。これかも高齢者のITリテラシーは高くなる。ただ、予測が難しいのは携帯電話の使われ方だ。2010年のメディアを考えるときに、1995年に2000年を予測した本などを調べてみたが、最も予想がはずれていたのは携帯電話だった。95年にカメラが携帯電話に付くと予測した人はいない。買い物ができると予測した人もいない。メディア環境研究所の調査では、15-19歳の女性が最も長く接触しているメディアは1番がテレビで、2番は携帯電話だ。1日平均77分接触している。しかし、これが20代になるとガクッと減る。社会人になったからなのか、この5年間で携帯電話が根付いたからなのかわからない。

参加者(携帯電話向け広告会社) 三越の場合、「アソシエイト」になりうる人の特徴は?

金沢氏 想定しているのは富裕層の主婦。多趣味でいろいろな会合に顔を出している人だ。ここに働きかけて会合ごと三越に持ってきてもらうことを企画している。都内のあちらこちらで、富裕層の奥さんが交流する会合は開かれている。例えば日本画家のある先生を囲んで日本画を楽しむ会が料亭や骨董品店、フランス料理店などで開かれる。そういう会合ごと三越に連れてきてもらい、担当者を付けて、お世話していく。会合の幹事役を引き受けた人は自分が中心になって会をまとめて、メンバーへの連絡やパーティーのメニューを決めるといったことに張り切っているので、我々がサポートしていく。

参加者(携帯電話向け広告会社) こうした取り組みにデジタル技術を活用するのか。

金沢氏 そこは(ブログのようにオープンではなく)クローズド。今は表に出ていない部分だ。ネットの方は料理教室の先生中心に集まる動きや写真家の先生を囲む会の動きがある。しかし、(口コミの)バイラルでつなぐ手法はハイエンドな層を囲い込むトライアルをしている。これはブログの話とは切り分けている。

司会(日経メディアラボ所長) 販売員がブログで応答しているということは、販売員のキャラクターも商品になっているのでは。そういう販売員をどれだけ育てられるかがポイントだろう。

金沢氏 ブログサイトにそういう魅力的な販売員がいないのは問題だ。ブログ担当者向けに研修を実施しているが、なかなか上手くいっていない。ただ、ブログに取り組みながらSEO(検索エンジン最適化)についてはわかってきた。検索サイトの画面に載る何万件もの記事のうち、1本目に掲載されるためのポイントがある。ブランド名や商品の使い方を含んだタイトルを使うことなどを徹底している。

参加者(電機メーカー) 三越のブログサイトは販売員の顔が見えてこない。もっと売り場にいる担当者の顔が見えるようにして「この人に化粧品の相談に行ってみよう」という気持ちにさせるやり方にしたほうがよい。実際に来店した人の体験がわかるようなトップページになれば、リアルの店舗との相乗効果も大きくなる。

金沢氏 ブログサイトは発展途上だ。例えば、検索サイトから当社のブログサイトに来る人がいるのに、何階の売り場に商品があるということを書いていない場合がある。トップページからではなく、(検索サイト経由で)横から入ってきているのに、それを徹底できていない。優秀な「スーパー販売員」のような人は忙しくてブログを毎日書く時間もない。こうした現状のなかでサイトの内容もレベルアップしようとしているところだ。

参加者(検索サイト運営会社) バーチャルな場によるつながりがリアルの動きになる効果は出ているのか

金沢氏 オフ会で初めて日本橋の三越に来店したという人がいた。ブログによって形成したコミュニティーをマーケティングの場として使いこなしたいが、まだ「持ち駒」としては貧弱だ。

中村氏 ブログが広告メディアになるのは、なかなか難しい。口コミツールとしては強力な影響力を持ち、マーケティングツールとして、コミュニティーをつくるのにも有効だ。ただ、ツールとして使うとき、プラスに作用するかは疑問だ。企業が広告で良いことをいっても、誰かがブログにマイナスのことを書き込むと広告の情報は消されてしまう。ブログに広告を配信してお金をもらっている人はいる。人が集まれば広告メディアになるのだろうが、広告メディアの一番のポイントは信頼性があるかだ。広告主は安心できなければ、そのメディアを使わない。ネットはコントロールできないのが前提であり、その最たる例がブログだ。これから本当に問われるのは書き手のメディアリテラシーだろう。ブログは気になる存在だが、広告のビジネスにはならないだろう。

司会 新聞社がブログを使うとき、信頼性の問題、誹謗中傷を書き込まれる問題にどう対処するのか。

参加者(新聞社) 2月からブログサイトを展開している。ニュースに対するコメントにスパム(迷惑メール)のようなものが集中したことがあり、これを削除するのに往生した。一般の人がライターになって運営しているコンテンツは上手くいっている。イレギュラーな書き込みがあってもコミュニティー参加者が排除していく。企業としてはブログサイトによるビジネスモデルを作っていく必要があるので、何かやりませんかという話をあちこちにするのだが「ブログはマイナスの影響が恐い」という反応は確かにある。ただ、新聞社の看板の中でブログ展開して、新聞の記事体広告のようなものができないかという話も出ている。(誹謗中傷などの)マイナスの書き込みに対応するのは運営者の毅然たる判断と行動だ。

司会 パソコン通信のシグオペレーター(シグオペ)を務めた経験では、場の雰囲気をメンバー間で共有していれば、変な書き込みがあっても、無視するなどして対処すれば最後はそういう連中はいなくなる。中核となる人たちのコミュニティーがしっかりして、良いファンがついていれば恐がることはないと思う。

参加者(新聞社) 三越のようにブログを使って企業と生活者がつながると、生活者と企業をつなぐメディアとしての広告の役割を脅かすのか。

中村氏 脅威かもしれないが、ブログを使って1対1でつながるだけでは済まない話だ。広告活動は需要を掘り起こすことが非常に重要だ。ターゲットを絞り込んだ広告についての議論があるが、むしろ、投網で情報を(マスに向けて)流せるものの方が有効だ。企業の情報発信はネットが起点になるが、情報提供の仕方としてはマスメディアの比重はそれほど減らない。ブログが出てきて、コミュニティーを作ることはマーケティングとしてありうるが、基本としては(マス広告で)知ってもらわないとだめだろう。新聞社のブログについては、新聞の持つメディアの信頼性がブログの中で生きるのではないか。メディアの信頼性、企業の信頼性はどこからできるのか。もうごまかしは効かないわけで、良い商品を正しく伝えることしか勝ち残る手はない。

金沢氏 ブログはいろいろトライアルしているうちの一つだ。企業からの情報発信がネットを起点にするという話が出たが、マーケティング推進体制のなかで企業の情報発信をネットに集約して、いかにブランド価値を高めるかが重要だ。eビジネスを所管する部署として一番コストをかけているのもこの部分だ。もう1回、サイトを使ってブランド価値を考え直す。そのためにサイトの運営体制を全面的に見直しているところだ。

司会 かつてのサイレントマジョリティーは、いまやネットでいろいろなことを言う。その人たちと企業は付き合っていかないといけないのは厳しい時代だ。しかし、片方ではチャンスでもある。

中村氏 企業のブランド構築は顧客とどう向き合うかだ。その結果がブランドだ。そこはマーケティングリサーチャーが決めることではなく、経営者が決めることだ。

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