「グーグルゾン物語」を読み解く(3)
「グーグルゾン」は莫大な広告収入を想定している。おそらく、広告モデルは現在の検索連動型広告を中心としたものになるだろう。同広告は、安い広告費で ユーザーをウェブサイトへ誘引でき、広告主の裾野を広げた。検索と連動する広告はユーザーの嗜好と合致し、効果が高いと言われている。コンテンツをパーソ ナライズするので、検索連動型広告をそのまま利用できそうだ。米国の調査会社eMarketerは同広告が04年度のオンライン広告全体の42%、総額39億ドル(約4000億円)に達したとしている。
また、「グーグルゾン」のリーチが広がり、広 告主がマスメディアとして認め、マス広告の市場を獲得することも考えられる。米国では、検索連動型広告が成長し続けているが、ブランド効果を期待したオン ライン上でのディスプレイ広告(バナー広告など)も成長している。サイトに誘導する検索連動型に加え、ブランド価値を高めるディスプレイ広告と両方のタイ プの広告が「グーグルゾン」の収益源となる。
しかし、日本でもこうなるのだろうか。米国と同じようには進まない可能性もある。日本はテレビを最も見ている国で、Eurodata TV Worldwideによると、1 人あたり1日平均5時間。2位の米国より約30分長い。テレビ広告の効果が依然高いとされており、当面は安泰との見方もある。ただ、ハードディスクレコー ダーの普及で、テレビ広告の効果が薄れることを懸念している広告会社は、「テレビ広告プラス検索連動型広告」の組み合わせという新しい形態を提案し始め た。
この手法は15秒のテレビCMで表現しきれな いことをウェブサイトに誘引して補完する考え方で、テレビCMで強調したキーワードを検索連動型広告で買っておくことにより、確実にユーザーをウェブサイ トに誘引する。視聴率以外の指標がなかったテレビ広告に、「広告主のサイトへの誘引数」という新しい目安が生まれた。
結果も一部出ている例として、三井不動産の高 層マンション「芝浦アイランド」のキャンペーンは、「芝浦」「芝浦の島」「芝浦アイランド」などのキーワードを購入した。テレビCMの放映直後に検索エン ジンからの誘導によるウェブサイトのアクセスが増加したというデータも取れているようだ。最新の事例では、NECの携帯電話FOMA N901iS「Nを追え」キャンペーンで、「Nを追え」、「N」と「追え」のANDなどがキーワードになっており、これからもテレビCMには検索連動型広告を組み合わせることが増えていくだろう。
それでは「グーグルゾン」のパーソナライズドメディアに検索連動型広告以外の可能性はあるのか。日本のオンライン広告の現状と広告会社、広告主(宣伝部)の意見から、可能性を探ってみた。
オンライン広告はバナー広告から始まり、オプ トインメール、検索連動型、コンテンツ連動型、行動履歴参照型といろいろな形態があり、技術の進歩および効果を最大にしようとする努力から常に進歩してい る。また、ディスプレイ広告では動画を表示するなど、クリエイティブに力が入れられるようになった。
売り方では、ターゲットしたユーザー向けの ターゲティング広告が注目され、米国ではある程度定着した。検索連動型も広く解釈すれば、ターゲティング広告と成果報酬型の組み合わせで、パーソナライズ ドメディア向けの広告は、ターゲティング広告の進化系の可能性が高い。ただし、単価を高く設定するターゲティング広告は、ほとんど日本で普及せず、仮に パーソナライズドメディアが普及しても、広告がパーソナライズドとなるかは微妙なところだ。
また、広告会社、広告主ともパーソナライズド 広告を否定しなかったが、課題が多く、主流にはならないと見ている。もし、パーソナライズドの効率化により、企業の広告費を削減できるとしても、業界全体 で「ターゲット層により深く」を主体とする考え方が浸透しなければ、一社だけスタイルを変えるのは難しいとしている。
パーソナライズド広告で想定される課題は①キャンペーンのターゲットを明確にするのが困難②複数のクリエイティブが必要となり、作業は煩雑に、コストも増大③広告効果の測定が困難――など。
①キャンペーンのターゲットを明確にするのが 困難:広告キャンペーンはある程度ターゲットを絞っているが、必ずしも広告主が想定したターゲットは実際の購入層と一致するとは限らない。もし、パーソナ ライズド広告で想定したターゲット層のみに露出すると、「想定外のユーザー」を落とし、実際の購入層へのキャンペーン到達ができなくなってしまう。
②複数のクリエイティブが必要となり、作業は 煩雑に、コストも増大:同じ商品でもターゲットが異なれば、伝えるメッセージも変わる。もし、広告をパーソナライズドとするのであれば、メッセージもパー ソナライズする必要がある。クリエイティブを複数用意することになり、作業は煩雑になり、制作コストも大きくなる。
③広告効果の測定が困難:複数のクリエイティブを使い、それに対応したターゲット層に広告を露出することにより、変数の要素が増え、広告効果の測定が困難になる。
パーソナライズド広告は宣伝部のブランド広告 予算より事業部管轄の販促費、ダイレクトレスポンス(DR)の大枠に入れた方がわかりやすい。DRの中にDM(ダイレクトメール)、Eメール広告などが含 まれ、現在全体の3~5割がネット広告になっている。注目すべきは、デルのようにDR目的のキャンペーンをマス広告で試している広告主が出てきている点だ ろう。ネットでも同じキャンペーンを展開し、効果のある媒体を評価しているようだ。
DRは完全に効率重視なので、パーソナライズド広告で効果があれば、企業の予算枠を確保できそうだ。ただし、パーソナライズド広告はコスト、手間などの課題があり、すぐに実験というわけにはいかない可能性がある。
ネット広告代理店のアウンコンサルティング (東京・千代田)の調査によると、2004年の検索連動型広告の市場規模は前年の3.3倍の350億円。今後も順調に成長していくと予測している。「グー グルゾン」時代の広告モデルは、現時点で検索連動型中心と予測するのが無難だろう。
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